大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高知地方裁判所 平成4年(行ウ)8号 判決 1996年2月19日

高知市横浜西町一番三号

原告

四国建機株式会社

右代表者代表取締役

横田善治

右訴訟代理人弁護士

田村裕

高知市本町五丁目六番一五号

被告

高知税務署長 佐々木秀敏

右指定代理人

早川幸延

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告に対し、平成三年四月一〇日付けでした原告の昭和五九年四月一日から同六〇年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という)の法人税の更正のうち、別紙法人税課税等経過表記載の昭和六〇年六月二四日の確定申告欄の所得金額(納付すべき税額一九九二万五五〇〇円)を超える部分及びこれに対する重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各処分」という)をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、本件事業年度の法人税を確定申告する際、大韓民国ソウル市所在のサン・リム・トレーディング・アンド・インダストリーズ・カンパニーリミテッド(以下「桑林企業」という)との間で、コミッション契約(桑林企業は、後記する本件浚渫船取引契約の履行に関し問題が生じればそれを原告のために解決し、円滑に取引が進むように助力する契約。以下「本件コミッション契約」という)を締結したため、販売手数料(九三四五万円)支払債務が発生したとして損金に算入し法人税の申告をしたところ、被告から、法定申告期限から三年以上経過後、右債務の発生は、原告の仮装行為により作出されたものだとして損金算入を否認され、本件各処分をされたため、本件各処分には、<1>所得金額を過大に認定し、<2>原告による仮装行為(国税通則法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)六八条一項)を誤認し、<3>期間制限(国税通則法七〇条一項一号)を徒過した違法があるとして、その取消しを求めた事案である。

二  前提事実(争いがない事実及び証拠により容易に認定できる事実(証拠により容易に認定できる事実は証拠を後掲する))

1  原告

(一) 原告は、建設機械の製造販売を営業目的とする株式会社である。

(二) 原告は、大韓民国ソウル市所在のコリア・ドレッジング・コーポレーション(以下「大韓浚渫公社」という)と、昭和五九年八月三〇日、クレーン船を売却する契約(以下「本件浚渫船取引契約」という)を締結した。

(三) 原告は、昭和五九年一一月二四日、本件浚渫船取引契約の代金決済のために、大韓浚渫公社の代理である株式会社漢陽の取引銀行韓国商業銀行から信用状(L/C)の開設を受けた。

(四) 原告は、大韓浚渫公社に対し、昭和六〇年二月一六日、本件浚渫船を出荷して引き渡し、同月二三日、同社から右代金の支払を受けた。

(五) 原告は、本件事業年度の確定申告に係る所得金額の計算において、本件コミッション契約に基づく役務の提供を受け、それにより本件浚渫船取引契約に関する販売手数料九三四五万円(以下「本件金員」という)の支払債務が発生したとして、右金員を損金に計上した(貸借対照表上は、未払金の名目で負債計上し、翌事業年度に繰り越した)。

(六) 原告は、翌事業年度の昭和六〇年四月一日に、右販売手数料の支払として本件金員を富士銀行五反田支店の完山大昌名義の普通預金口座(以下「完山大昌口座」という)に振込入金した。

2  被告の更正

(一) 被告が認定した原告の所得金額 一億五二一七万九四六九円

被告は、次の(1)に(2)を加え、(3)を減じて原告の所得金額を算出した。

(1) 原告の確定申告に係る所得金額 六一〇六万五七一九円

(2) 販売手数料否認金額 九三四五万円

被告は、原告が、本件販売手数料に係る未払費用九三四五万円を計上して損金経理をしたことについて、右金員は、原告の損金(法人税法二二条三項)に算入できないと否認した。

(3) 寄付金の損金算入額 二三三万六二五〇円

被告は、原告が、確定申告において、寄付金の損金算入限度額を超える部分(法人税法三七条二項、三項本文、三号、及び同法施行令七三条一項一号、七七条)の二八六万七九五九円を損金の額に算入していなかったところ、前記のとおり本件販売手数料九三四五万円の損金算入を否認したことに基づき、損金算入限度額は拡大し四二三万〇四五四円となり、損金算入限度額を超える部分の金額は、五三万一七〇九円となったため、その差額二三三万六二五〇円を損金に算入した。

(二) 納付すべき法人税額 五九三七万七九〇〇円

被告は、原告が納付すべき法人税額を、次の(1)及び(2)の合計額六四五六万九六〇七円から、法人税法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)六八条一項、三項の規定による所得税額の控除額五一九万一七〇二円を控除し算出した(国税通則法一一九条一項の規定により一〇〇円未満の端数切捨て)。

(1) 軽減税率適用所得金額に対する税額 四四〇万八五八七円

被告は、租税特別措置法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)四二条の二第一項の規定により、益金の額に算入しない配当等の金額のうちから配当等をしたものとして租税特別措置法施行令(昭和六三年政令第三六二号による改正前のもの)二七条の二第一項で定める金額として計算した一四四〇万円から受取配当等の益金不算入額一一六万〇九二五円を控除した一三二三万九〇〇〇円(租税特別措置法関係通達四二の二-六により一〇〇〇円未満の端数切捨て)が原告に係る軽減税率適用所得金額であるとし、それに、同法四二条の二第一項一号及び租税特別措置法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。(2)において同じ。)四二条一項の規定により、一〇〇分の三三・三の税率を乗じ税額を算出した。

(2) その他の所得金額に対する税額 六〇一六万一〇二〇円

被告は、その他の所得金額は、前記所得金額一億五二一七万九四六九円から右(1)の軽減税率適用所得金額一三二三万九〇〇〇円を控除した一億三八九四万円(国税通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数切捨て)であるとして、それに、法人税法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)六六条一項及び租税特別措置法四二条一項の規定により、一〇〇分の四三・三の税率を乗じて税額を算出した。

(三) 更正の理由

被告は、前記(一)(2)のとおりに、原告がした本件金員の損金計上を否認しているが、その理由は次のとおりである。

被告職員が、本件金員について調査を行ったところ、本件コミッション契約は架空であって、桑林企業が同契約に基づき役務の提供をしたことも、同社が販売手数料として本件金員を受領したこともないことは明らかになったが、それ以上に調査を進めても、本件金員の支出の相手方及び目的が明らかにならなかったから、本件金員は、事業との関連が認められず、使途不明金(法人税基本通達九-七-二〇参照)であり、損金計上できない(乙二(二枚目の「更正の理由」の「加算」の欄)、証人高橋清人(以下「高橋」という))。

3  本件更正等の経緯

本件に関する法人税の確定申告、更正処分、賦課決定、審査請求及び裁決の経緯は、別紙法人税課税等経過表記載のとおりである。

なお、本件の法定申告期限は、昭和六〇年七月一日であり、本件各処分は法定申告期限から約五年九か月経過後に行われた。

三  原告の主張の概要

1(一)  被告は、本件金員の損金計上を否認しているが、本件金員は、本件コミッション契約に基づき桑林企業から役務の提供を受けた対価であって、本件浚渫船取引契約に関する販売手数料として損金計上できる。

(二)  なんとなれば、本件は、<1>原告と桑林企業との間で、昭和五九年八月三一日、桑林企業の事務所において、原告のレターヘッド(特製自社名入り便箋)に記載した販売契約書(甲七の1)二通と、桑林企業のレターヘッドに記載した販売契約書(甲二一の1)二通を作成し、その各販売契約書を一通ずつ持ち合って本件コミッション契約を締結し、<2>同契約を締結したことで、桑林企業は、昭和五九年一一月、同契約に基いて、原告のために助力して信用状を開設することに成功し、<3>そこで、桑林企業は、原告に対し、昭和六〇年三月八日付けの請求書(甲一五の1、2)で、本件金員の支払を請求し、<4>原告は、それに応じ、右請求書記載の完山大昌口座に送金して支払を済ませた経緯があり、以上によれば、本件金員の性質が販売手数料であることは明らかである。

(三)  この点、被告は、各販売契約書(甲七の1、二一の1)及び請求書(甲一五の1)について、本当のところ、本件コミッション契約締結の事実も、原告が桑林企業から役務の提供を受けた事実もなく、本件金員の送金先も明らかでないから、右の各書類は、虚偽の事実を殊更に記載した虚偽文書であると主張するが、右各販売契約書は、前示(二)のとおりの経緯により作成された真正な内容の文書である。また、本件金員の送金先は、桑林企業自身又は桑林企業が指定する第三者(桑林企業から同社に代わって本件金員を受領する権限を与えられた者)であって、被告の主張は理由がない。

2  このように、原告の確定申告は、適正なものであるし、仮に、本件金員が損金に計上できず、過少申告であったとしても、国税の課税基準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を仮装したわけでもないし(国税通則法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)第六八条第一項)、偽りその他不正行為により、その全部もしくは一部の税額を免れた(国税通則法第七〇条五項一号)わけではない。

したがって、本件各処分は、重加算税を賦課する要件も充たしていないし、法定申告期限より三年内に行わねばならない期間制限規定(国税通則法七〇条一項)にも違反しており取消しを免れない。

四  被告の主張の概要

1  原告は、本件金員について、桑林企業に対する販売手数料であると主張するが、前示二2(三)更正の理由に記載してあるとおり、本件金員は、使途不明金であって損金として計上することはできない。

即ち、被告職員が調査を行っても、本件金員が、本件コミッション契約に基づく販売手数料であると認めるに足りる証拠はなく、それどころか、本件金員の支出相手及び支出目的を捕捉できない。そのため、本件金員と原告の事業との関連性が認定できないため、本件金員は、使途不明金とせざるを得ない(法人税法基本通達九-七-二〇)。

2  また、原告は、真に本件コミッション契約を締結していないのに、その契約締結の事実を仮装するために、内容虚偽の契約書(甲七の1、二一の1)や請求書(甲一五の1)を作成するなどし、その上で、本件金員を、真実に反して販売手数料として確定申告しており、原告が、意識して、課税標準等又は税額の計算の基礎となる事実の全部又は一部の隠蔽又は仮装(国税通則法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)六八条一項)していたことは明らかであるし、税額を免れる意図で偽りその他不正の行為(国税通則法七〇条五項)を行っていたことも明らかである。

3  したがって、本件金員を損金に算入することで過少に所得金額を算定していた本件確定申告は、更正を免れないし、重加算税の賦課の対象になる。そして、これらの処分に関する期間制限は、法定申告期限から七年間に伸長されるから(国税通則法七〇条五項本文、一号)、本件各処分は適法である。

五  争点

1  本件金員が本件コミッション契約に基づく販売手数料であることを否認し、本件金員は使途不明金に該当するとした被告判断の正当性

2  原告が、本件金員を損金計上するために、隠蔽、仮装行為(国税通則法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)六八条一項)を行い、また、課税を免れる意図の下で、偽りその他不正の行為(国税通則法七〇条五項)を行ったかどうか。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

1  証拠(乙四の1、2、七、八の1ないし18、九ないし一一、一五の1、2、証人小川智(以下「小川」という)、証人高橋、証人安芸文雄(以下「安芸」という))及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告は、原告の本件事業年度についての確定申告を受けて、昭和六二年頃から税務調査を開始した。

(二) 被告は、大韓民国税務当局に対して本件浚渫船契約書、原告のレターヘッドに作成した本件コミッション契約書、インボイス(請求書)、完山大昌口座の普通預金証書及び原告による四国銀行から完山大昌口座への振込領収書を添付して、日韓租税条約に基づく調査を依頼していたところ、平成二年五月二八日付けで同局から書面(乙四の1、2)による回答があった。

その回答書には、桑林企業は完山大昌口座を開設したこともなく、原告に対し、同口座へ仲介手数料の振込みを依頼したこともないのみならず、桑林企業は原告といかなる取引も行っておらず、かつ、同口座に振り込まれた九三四五万円とは何ら関係がない旨の記載があった。

(三) 被告職員は、平成二年八月六日、原告方応接室で、原告代表取締役横田善治及び原告営業課貿易係長(当時)安芸と面会した。

その際、横田善治は、本件コミッション契約に関して、詳しい事情は知らないが、大韓浚渫公社から桑林企業を仲介者と指定してきたと供述し、安芸は、<1>大韓浚渫公社と本件浚渫船取引契約を締結するために、植田辰雄と小川が大韓民国に出向いたところ、大韓浚渫公社から、同社は桑林企業に世話になっており、原告に本件浚渫船代金を増額して支払うかわりに、その増額分をそのまま桑林企業に渡すように申し込まれたこと、<2>本件金員は、正規に算定された代金と、その代金に上乗せして決められた名目上の代金(オーバープライス)との差額であること、<3>本件コミッション契約書は、植田辰雄と小川が帰国後に、安芸が、原告方にあるタイプライターを使用し作成したこと、<4>桑林企業代表者崔奇林(以下「崔」という)が友人を連れて来社した際、自分が対応し名刺(乙九添付)を受領したことを供述した。

なお、安芸は、崔を接待した経緯について、崔は、鄭徳周(CHUNG DUK JU)を伴って、昭和六〇年三月中旬に原告方に来社し、その場で本件コミッション契約に基づく手数料を完山大昌口座に支払うように求める請求書を自分(安芸)に作成させたと証言している。

(四) 被告職員は、同年二年八月八日、原告方応接室で、原告常務取締役(当時)植田辰雄及び坂本某と面会した。

その際、植田辰雄は、<1>桑林企業の関係者とは、本件浚渫船取引契約の締結の際に、初めて出会ったこと、<2>本件金員は、大韓浚渫公社の要求による本件浚渫船代金の上積分であること、<3>本件コミッション契約書とインボイスは、崔が原告方に来社した際、作成されたものであること、<4>安芸から、本件コミッション契約とインボイスは同じタイプライターにより原告本社で作成したものであろうと聴いていること、<5>本件金員は、桑林企業の指定する口座に振り込んで支払を済ましたこと、<6>桑林企業は大韓浚渫公社のダミーであることを供述し、被告職員が、植田辰雄に対し、右供述を文書にして提出するように求めたところ、植田辰雄は、取引上のダメージになるとか、商売の信義上できないと拒否した。

(五) 被告職員は、同年九月二七日、原告方応接室で、横田善治、小川及び坂本某と面談した。

その際、横田善治らは、本件金員は、販売手数料であり、既にこれに関する書類は揃えて被告に提出済であるとか、いまさら桑林企業に対して領収書を貰うことはできないと供述し、小川は、自分が崔と会ったのは、本件契約(この契約が本件浚渫船取引契約か本件コミッション契約かは不明)締結の時だけであるが、同人は、大韓民国経済界に顔がきく人物らしく、大韓浚渫公社は、本件浚渫船代金支払時に本件金員を桑林企業に支払うことを要求したと供述した。

(六) 被告職員は、平成三年一月二九日、原告方応接室で、横田善治他二名と面談した。

その際、横田善治は、本件に関し、新たな事実や証拠書類が見つかっていないこと、本件金員の支払は、大韓浚渫公社からの要求で本件浚渫船代金を上積みした分であり、原告の利益率は本件コミッション契約締結の前後で変わらないと供述した。

(七) 前示のとおり、完山大昌口座に振り込まれた本件金員のうちの約五〇〇〇万円が、右口座からアメリカ合衆国アメリカ銀行カリフォルニア支店MINIK(又はMINK)SON普通預金口座に送金されていることから、国税庁は、アメリカ合衆国財務省に、右口座の照会をしたところ、アメリカ合衆国財務省は、平成五年一二月二二日付けの回答書(乙一五の1、2)を国税庁に送付してきた。右回答書には、右口座名義人であるMINIK SON氏は、カリフォルニア州セントスにあるラッキーゴールドスターインタナショナル社のマネージャーであり、MINIK SON氏は完山大昌及び原告との取引はないが、MINIK SON氏の個人的な友人であり、韓国人で昭和六〇年から同六一年の間、日本に在住していたDUK JU CHUNG氏に右口座の使用を認めていたと記載されている。

(八) 原告営業課長(当時)小川は、本件コミッション契約締結に至る経緯に関し、次のように証言している。

植田辰雄及び小川は、昭和五九年八月二七日に大韓民国に出向き、大韓浚渫公社と本件浚渫船取引契約の交渉をしていたところ、同社から、桑林企業を本件浚渫船取引契約に仲介者として介入させることを要求された。その際、大韓浚渫公社は、原告が桑林企業に支払う金員は、本件浚渫船契約の船価に上乗せして大韓浚渫公社が原告に支払い、原告はその上乗せ分を手数料として桑林企業に支払えばよいと申し出たため、植田辰雄らは、原告本社と連絡を取ったうえ、大韓浚渫公社の求めに応じて、桑林企業と、本件コミッション契約を締結し、本件金員を支払う合意をした。

2(一)  以上の事実を総合すると、原告は、大韓浚渫公社から本件浚渫船の水増し部分を本件コミッション契約による手数料名目で桑林企業に支払うよう求められ、これを仮装するために本件コミッション契約書を作成し、その履行として崔の求めに応じて本件金員を完山大昌名義の口座に送金し(したがって、この送金が大韓浚渫公社の意思に沿うものとは言える)、その内の五〇〇〇万円がアメリカ合衆国に送られ、鄭徳周の手に渡ったものと推認されるが、五〇〇〇万円に関するその後の流れや本件金員のその余の資金の流れは一切不明であって、そのため、桑林企業が大韓浚渫公社のトンネル会社として利用されたものかどうかなどの詳細を含めて、これが桑林企業に渡ったかどうかもまた不明であると言わざるを得ない。

ところで、支出金が業務と関連しないものは、損金算入はできない(法人税法二二条三項本文、一号ないし三号)ところ、原告のなした本件金員の支出相手は桑林企業ないし大韓浚渫公社との関係において不明であり、本件金員が桑林企業に渡ったものかも判然としないし、また、その支出目的も本件金員の流れが分からない限り不明という外はなく、結局、原告の業務と本件金員の支出との関連性は不明であって、法的には業務と関連しないものと評価せざるを得ない。

そうすると、被告が本件金員を使途不明金と判断し、損金計上を否認したのは正当である。

(二)  ところで、原告は、販売契約書(甲七、二一(各枝番を含む))、請求書(甲一五の1、2)が本件コミッション契約の証拠であると主張しているが、前示のとおり、本件コミッション契約自体が実体のない架空の契約であるから、仮に、右各書類の作成者、作成日時が原告主張のとおりであるとしても、その書類は、虚偽内容が記載されたものであり、右各書類の存在が本件コミッション契約の成立を裏付ける証拠にはならない。また、同様に、本件コミッション契約に基づく支払請求が、右請求書に記載されているが、この支払義務は、名目上、本件コミッション契約に基づくものに過ぎず、その実体は本件浚渫船代金の水増分の返還請求に他ならないから、この請求書も虚偽文書であって、原告の主張を裏付ける証拠にならない。

3  原告のその余の主張とそれに対する判断

(一) 原告は、過去の取引において、相手方が信用状の開設ができずに損害を被った経験から、本件コミッション契約の必要性を感じ、同契約を締結したと主張する。

しかし、<1>原告の主張するとおりであれば、原告は、本件浚渫船取引契約の締結に際し、早い段階から、自ら積極的に信用状の開設を確実にするための措置を講じてしかるべきであるが、本件全証拠によってもそのような事実は認められず、大韓浚渫公社からの申出があるまで信用状の開設を確実にするための措置を講じていないこと、<2>原告は、本件コミッション契約以前に、既に、本件浚渫船取引契約に係る仲介を盛和通商株式会社(東京都港区新橋六丁目所在)と勝利建業社(大韓民国ソウル市所在)に依頼して委託契約を締結していること(乙五、六(各枝番を含む))、<3>しかも、本件コミッション契約に基づく本件販売手数料の金額は、右の盛和通商株式会社及び勝利建業社に対する手数料(一六〇〇万円、一五〇〇万円)の金額や、本件浚渫船取引契約の代金七億一六四五万円と比較して高額であること、<4>本件浚渫船取引契約書(甲六の1、2)には、大韓浚渫公社の信用状開設業務(第3章支払い条件3-1)が規定されていることなど、原告が主張するとおりに本件コミッション契約が締結されたと認めるには、不自然、不合理な点が多く、原告の主張は到底是認することができない。

(二) 原告は、昭和五九年一一月頃、桑林企業に出向き、崔に対して、信用状の開設が促進されるように、大韓浚渫公社の親会社である株式会社漢陽に働き掛けることを依頼し、その結果、信用状の開設は促進されたと主張し、証人小川はその趣旨に沿う証言をしている。

しかし、前記のとおり、本件コミッション契約は実体のない架空契約であるのに、小川が崔に信用状の開設を依頼したとは考えにくいし、その他に原告の主張を裏付ける的確な証拠は認められないから原告の主張を採用することはできない。

(三) 原告は、アメリカ合衆国財務省内国税収入局作成の甲第三一号証の1、2(枝番を含む)を根拠に、鄭と桑林企業が同一であると主張するが、右書証中には、「限定はしないが下記項目を含む一九八五年四月一日より一九八六年三月三一日までの日本国高知県高知市横浜四五五番地の四国建機及び若しくは大韓民国Seoul chungmu-ku, chungmu-Ro, 2-Ka, 62-7のSang Rim Trading & Industries Co., ltd及び若しくはMINIK SONにより又はこれに代わって管理されている口座番号No.10518-06207を含む全ての口座に関連する原告の保有、保管及び管理する全ての記録」と記載されているに過ぎず、この記載を素直に読めば、アメリカ合衆国財務省内国税収入局は、調査をするためにひとつの推測を記載したものであり、この記載から鄭と桑林企業が同一と認定することはできないし、原告の主張も当を得ていない。

(四) 原告は、大韓民国税務当局が、原告と桑林企業との他の取引及び本件金員に関する預金口座についての証拠が新たに発見されれば報告されたいと要請をしているにもかかわらず(乙四の1、2)、被告は、大韓民国税務当局に対し、新たに入手した桑林企業のレターヘッドに書かれた本件コミッション契約書(甲二一の1、2)及び桑林企業が原告に送付したクリスマスカード(甲二七の1ないし3)を送付するなどして再調査の依頼をすることもなく、調査を十分にしないままに本件金員の損金計上を否認したと主張する。

しかし、証人高橋の証言(平成七年二月二〇日付け調書三丁表)によれば、被告職員は、桑林企業のレターヘッドに書かれた本件コミッション契約書は、原告のレターヘッドに書かれた本件コミッション契約書(甲七の1、2)と同内容の書面であるし、クリスマスカードは社交辞令として送られることも多く桑林企業と原告との直接の取引の証拠となるものではないから、大韓民国税務局に対し送付しなくてよいものと判断したものであり、このような、新たに入手した資料の証拠としての価値が低いため、新たに大韓民国税務局に送付する必要がないとした被告職員の判断には、不自然、不合理な点はないから、原告の主張を採用することはできない。

二  争点2について

前示一2(一)のとおり、本件コミッション契約は、本件浚渫船の船価の水増しを偽装するための実体の欠ける架空契約であり、原告は、真に本件コミッション契約を締結していないにもかわらず、作成されている内容虚偽の契約書(甲七、二一(各枝番を含む))や請求書(甲一五の1、2)をもとに、右契約に基づき販売手数料が発生したとして本件金員を損金計上し、本件確定申告をしたのであるから、原告は、課税を免れる意図の下、損金を多額に申告し、真実の所得を隠蔽し、それが課税対象となることを回避したものであり、原告が、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装(国税通則法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)六八条一項)及び偽りその他の不正の行為(国税通則法七〇条五項一号)を行ったことは容易に認められる(最高裁昭和六二年五月八日第二小法廷判決・訟務月報三四巻一号一四九頁参照、同昭和五二年一月二五日第三小法廷判決・訟務月報二三巻三号五六三頁参照)。

ところで、原告は、本件金員の勘定科目が、損金として計上しうる販売手数料なのか否かは評価の問題であり、原告が、本件金員を誤って損金計上したとしても、本件金員の評価を誤ったことになるだけであって、原告が、意図的に損金として計上しえない金員を、損金に計上しうる金員と仮装したり、偽りその他の不正行為を行ったことにはならないと主張しているが、前示のとおり、原告が、実体のない架空のコミッション契約を行っていたことが、既に、課税標準等の計算の基礎となる事実を隠蔽、仮装し、偽ったことになるのであるから、原告の主張は失当と言わざる得ない。

第四結論

以上によれば、被告の原告に対する本件各処分は適法であって、原告の本件各請求は理由がないから、いずれも主文のとおり棄却する。

(裁判長裁判官 溝淵勝 裁判官 久我泰博 裁判官 遠藤浩太郎)

別紙

法人税課税等経過表

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例